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  • 執筆者の写真Toshiya Kakuchi

最高の最低 Ⅱ



今回は活字のみのブログなので、商品だけに興味がある方はすみやかにシャットダウンして頂くことをお勧めする。



難しい話はさておき、経済産業省のデータでは近年のアパレル市場は単価は安くなってはいるものの、ほんの少しずつ消費量そのものは増えている。



つまり、安くて良いものをたくさん買う人が増えているということだ。



この傾向は特に2015年頃からが顕著で、トレンドと重ねてみるとミニマルや上質といったキーワードが浮上してきた頃で、デザインは控えめでも品質が良いものなどが台頭してきた時期にあたる。



それぞれのスケールはあるが、最も低単価かつある程度高い品質を持ったものを扱うユニクロなどがその市場を牽引していることは間違いなく、Bechicsのような立場に置き換えると今回の主題でもあるBATONERなどがその要素を持っていると言えるだろう。



例えば、10年前まで8,000円で売られていたTシャツが、今は5,000円で買えるようになっているとしたとき、品質は必ず落ちているだろうかと考えるとむしろ上がっているような気がするのは私だけではないはずだと思う。



実際に店に立ち続けている私は「気がする」わけではなく、もはや確信を持っているその状況をいくつかの理由とともに説明し、最後はこの先の我々ファッションを愛する全員のためにお願いもしなければならないと思い今回のブログを書き始めた。



まず、品質が高い上に買いやすいものが増える理由をいくつか並べてみる。

とても長いがしっかり理解しながら読んで頂きたい。



1:数十万〜数百万点規模の大量生産をすること(ユニクロなどが該当する)

大量生産をすると生地値や加工賃が安くなるが、その理由は非常にシンプルで利益率を下げても利益高が上がれば下請けにとってメリットがあるからだ。

作業に人が介していないマシンメイドの場合は、大量の機械を導入すればあとは時間の問題だけでケチなことを言う必要がなく、たくさん作ればどんどんお金が入ってくるという仕組みだ。

しかし、数十万からの規模を管理するには相当数の人が必要となる他、その機械が壊れてしまった時に手を下すのが人であることなどは注釈をいれておく。



2:中間マージンを発生させない(ユニクロやBATONERが該当する)

いわゆる自社工場を持つブランドなどが筆頭だが、洋服を作る時に必要なモノゴトを自給自足できる会社は出来上がったモノを安く売ることができる。

これもまた、ユニクロなどで例えるのがわかりやすいが、大きなところで括ると「生地・パターン・縫製・加工・仕上げ・物流」などを全て自給自足でできると余計なマージン(手数料)が発生せず、商品の価格を極めて原価に近づけることができる。

故に、誰の目から見てもお買い得な商品がどんどん現れてくるわけだが、たくさん売るにはたくさん買う人がいる商品を作らなければならない。

では、デザインは?色は?と言うと、もっとも一般ウケするものになってくる。



3:誰かが自分の利益を削る(BATONERなどが該当する)

一般ウケは難しいが、確かな技術や玄人に喜ばれるような感覚を持った工場はどうだろうか。

そのような工場が今も残っているのは、機械ではできないような人ならではのプロダクトを作れる、そしてそれを支持する感度の高い消費者が一定量存在するということを前置きしておきたいが、これまでそんな工場は我々セレクトショップのようなファッション感覚を押し出した会社からの受注によって支えられ、数十万とは言わずも5,000〜10,000点のようなある一定規模の発注を受けて生計を立ててきた。

しかし、時代の流れとともに少しずつ味わいあるものや時間をかけて楽しむことが淘汰され、安くてファストな消費が主流になってくる。

当然、セレクトショップも商品の価格や早さに拘れなければならなくなり、10,000点を半年かけて売っていた店も1,000点を瞬時に売り切ることをメインにMDを組み立てていくが、数量が変わってもその商品のデザインやパターン作成など、モノを作る工程は変わらないので人件費やサンプル代など裏でかかる費用は増していく。

当然その下請けである工場も、生き残りをかけて10,000点作っていたものを1,000点でも注文を受けるようになるが、生地の原料になる綿一つとっても1トンより10トンの方が安く買えるわけで、川下にいくほどに量に関わるインパクトが大きくなる。

しかも安定的に仕事が入るならまだしも、ブツブツと仕事が途切れながら、それも納期は早くしろと言われ経費だけはどんどん膨れ上がっていく。

しかし、それでも市場にリリースする時に今まで以上に価格が上がっては話にならないと言われ、結果的に品質の高いものが安く手に入るようになっている。



察しの良い方ならここまで話せばその先を想像することができると思うが、今回のコロナショックにより世界中の経済に大きなダメージが出始めていることを、本件と結びつけながらお話を続けたい。



まず、今後起こり得る具体的なネガティブトレンドは消費者の買い控えと資金力のない中小企業の倒産、そしてそれらに呼応する大企業の保守的経営だ。



ビフォーコロナの時点でとっくに限界を迎えながら目下の注文を受けて食いつないできていた工場は、様々な理由で付加価値の高いモノを買わなくなってしまう消費者、それを受けて発注量をさらに極端に減少させる企業にトドメを刺され次々と廃業する。



さらには、スケールにものを言わせて良いものを安く提供していた会社も、こればかりはと数十万点作っていた商品を数万点に縮小させるが、数十万点の生産性を持っていた工場が数万点になってしまった時に起きるキャッシュフローの悪化は甚大で、「いっぱい作るって言ってたから拡大したのに!」と、ここも急激なピンチに見舞われる。



私自身ここまで話が長くなってしまうとは思っていなかったので、今回は異例の3部構成にして再び続編を書こうと思うが、最終章をご覧いただく前にお断りを入れておきたいことが2つある。



それは、この先なにが起きようともウイルスがもたらしたことにおいては誰もが悪くないということ、そして、ファッションに限ったことではないが、ものを買うという単純作業の裏側にある良いモノを安く買いたいという消費者心理やそれを支えてきた企業の努力が今回ばかりは相関性を保てず次々と破綻する可能性があるということ。



ファッションを愛する者においては、特に消費者も我々モノを仕入れる人間も関係なく、よく考えて洋服に向き合わなければならない。



4月末にかかってきたBATONERからの電話で、「ドウシマショウカ。」の回答にキャンセルの選択肢を一言も口にしなかったのは(当然のことではあるが)私なりの考えだ。



皆一様に生死をかけて過ごす毎日ではあるが、そんな中でも今一つ一つを考えて行動しなければ5年後に待っている未来は愕然とするようなことになっているだろう。



(最終章につづく)










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