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  • 執筆者の写真Toshiya Kakuchi

拝啓、皆様

『お元気ですか? 私は元気です』



これは、今年の1月に公開された「ラストレター」の前作にあたる、1995年に公開された岩井俊二監督の出世作「Love letter」という映画の劇中で使われる重要なフレーズです。



新型コロナウイルスが猛威を振るう中、あることをきっかけに思い出して引用しています。



主演の中山美穂演じる「ワタナベヒロコ」が2年前に亡くしてしまった元婚約者の男性「藤井樹」に宛てた届くはずもない一通の手紙を、偶然にも同姓同名で「藤井樹」の友人でもある女性「フジイイツキ」が受け取ってしまうところから物語がスタートし、誤解と想像を繰り返しながら双方の女性が一人の男性を想い文通を続ける女性の心の内を描いていくストーリーです。



極めて女性目線で繊細なセンテンス、小説家や俳優としての側面も持つ岩井監督のドラマティックなストーリー展開、独特の映像美など見所満載な作品でした。



私もちょうど思春期に当たったことから1998年の「四月物語」など、自然に岩井監督作品を見る機会があったのですが、素朴な女性の日常を取り巻く恋愛の悲喜こもごもをリアルに描写した内容に当時は『ふ〜ん…』という感じで、わかったようなわからないような(きっと全然わかっていません笑)気持ちで見ていた記憶があります。



今思えば、当時10代の思春期であった自分には「素朴な恋愛」というテーマがかえって身近な内容すぎたんでしょう。

今で言う”バチェラー”のような派手な演出に見慣れた時代感覚で見返したとしたら、その言葉や表情の奥にある機微なども含めてもっと楽しめるのでしょうが、あの淡い恋愛物語をまじまじと見返すには少々歳をとり過ぎましたので、お時間ある方は是非この機会にご覧になってみてください。

(途中、今見るには少し不謹慎なシーンもありますが悪しからず)






さて、前置きはそれくらいにして今日はお客様皆様へ、私がこのタイミングでこそお伝えしたいことを書いた商品紹介ではないブログです。



新型コロナウイルスという未曾有の恐怖と日々深刻化していく社会全体への影響は、今なお加速し難しい状況を脱する具体的な兆しがなかなか見えません。



皆様はもちろん、皆様のお近くにいらっしゃる方々が変わらず健康でお過ごしであることを心から願います。



『お元気ですか? 私は元気です。』



このフレーズを思い出すきっかけとなったのは、もちろんこの状況を踏まえて皆様を案ずる気持ちが一番ですが、同時に先週土曜日に皆様へ発信をした



「スタジオベシックス おんらいんさろん」



という、ノリ100%な企画であるにも関わらず、ありがたくも皆様からお寄せ頂いたお声の中で



「オススメの映画はありますか?」



という内容が多かったことが原因です。



あの時から今も続いていますが、私はいち事業者として、ファッションに携わる者として、いち国民として、皆様と同じく様々なことを考えながらこの緊迫した時間を過ごしています。



過去にも私がこの業界に就いてから少なくとも2回、サブプライムローン問題(所謂リーマンショック)や東日本大震災という日本中がひっくり返るような国難を目の当たりにしてきました。



今回もまた過去とは違った形で心身的、経済的危機への大きな不安を抱えていますが、小さくとも経営者となり社会や消費者を意識するようになった今の立場では、同じくこのトンネルの中で不安を抱えているお客様皆様に微力ながら何らかの形で楽しんで頂くことや、業界の慣習への警鐘を鳴らす思いで日々行動しています。



そして、こんな時だからこそ皆様にしたいファッションやその他についてのお話もあります。

面倒くさい話ですが、このまま読み進めて頂けると嬉しく思います。



まず第一に、特に若い世代にお伝えしたいこととしては、世界中が混乱した今こそ見えるさまざまな本質をしっかりとご覧頂き忘れないで欲しいということです。



昨日InstagramにアップしたCOOHEMブランドからの布製マスクの無償提供は実にその一例ですが、このマスク不足の中で作れる人たちが利他心を持って行動しただけのこと、そんな単純な話ではないと考えます。



今、世界中のブランド側の状況を説明すると、AW20の展示会を終えオーダーのついた商品を量産しているところです。



この状況なので、おそらく多くの工場は止まっているでしょう。

そんな時に、工場へ何が何でも自分たちの商品を納期通りに作るように強要するようなブランドもあれば、目前に迫った不況予想を材料に工場の足元を見た強引な値引き交渉をする巨額の資本を持った会社もあるでしょう。

(Bechicsでお取引しているブランド様などはそのようなことは一切ないと断っておきます)



マスクの買い占め問題もそうです。

人の弱みに付け込むような横暴な転売などは弁明の余地なき悪行ですが、それらが行われていることを認識しながらも、国の要請を受けるまでストップをかけなかったメルカリやヤフオクのような企業が皆様の日常に欠かせないと言われつつもあります。



資本主義社会のアレコレに関して言及すると議論が変わってしまうのでここでは避けますが、伝えたいことは、日本ではいかに消費者自身が物事の善悪や良し悪しに関してクローズされた環境下で生きているかということや、知らず知らずのうちに自らの便利のために善悪の判断がないがしろになっていないか?ということです。



この先も、方々で本当に困っている人たちが現れてきますが、その時我々が取る消費行為に対してはしっかりと考える必要があります。



前提として考えるための情報が得にくいということもありますが、消費者側も成熟しなければ結局のところ価値あるブランドも、モノの適正価格もわからなくなってしまうことはもとより、自らの思考を停止し与えられた情報に対して判断しないことは、結局のところ最後には消費される側にまわってしまうことを意味します。



前述のCOOHEM(米富繊維株式会社)も例外なく、様々な問題がある中で消費者や取引先のことを真っ先に考え行動する姿は、真に尊敬をするに値します。



この一面を見るだけで、日頃のCOOHEMの企業としての姿勢がいかなるものかを察することができるわけですが、品質に対して異常に安いあの価格設定も、このマスク一つで腹落ちするような気持ちにならないでしょうか。(だからと言ってCOOHEMを買った方が良いというわけではありません)



別問題としては、このような時でさえ抱えた在庫を何としてでも売ろうと安売りキャンペーンを行い先日まで”一生モノ”と謳われていたものが容易くセールにされていたり、ブランドへの尊敬も配慮もなく叩き売ろうとする姿勢を見る限り、過去2回の経済危機で学んだと思われたファッション業界の身売りとも言える悪しき慣習の再来と思わざるを得ません。



肝心な時に一番大切なファッションへのプライドをいとも容易く捨て去る企業に、消費者はこの先どう信頼をすれば良いのでしょうか。



たかがファッションだと私も思っていますが、それがない生活など想像もつかないほど私たちにとって大切なファッションでもあります。



だからこそ、Bechicsに関心をお持ち頂く皆様が単純にファッションを表面だけで捉えているわけではないことを表す「オススメの映画はありますか?」というご質問が多かったことは素直に嬉しかったです。



ファッションも然ることながら、自ら考え価値を見出したり情報や多勢に流されないことがこの先より必要になってくると考え、少しだけ年長である立場から小言をブログに書き綴ってみました。



あと数週間もすれば世界が少しずつ好転し、ファッションが持つポジティブな力を改めて感じることとなるだろうと確信しています。



気分が高まる洋服に袖を通した時の喜びや、何気なく快適に過ごせる日常の幸せ。

それが決して当たり前のことではないことを全世界の人々が気付き、ファッションの持つ大きな力を喜べる日が再び来ます。



少なからず贔屓目もありますが、ここ最近私のINDUSTRIAのBDUジャケットの着用率が高く、思いがこもった服があることの幸せを今こそ感じていたりもします。



話が長くなりましたが、皆様がそれぞれのタイミングで落ち着かれた頃にまたBechicsでお会いできますことを心より楽しみに、お待ち申し上げております。



皆様と共に再びファッションを盛り上げていけることを心から願っています。




2020年4月9日 

店主 角地 俊耶


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