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  • 執筆者の写真Toshiya Kakuchi

From 1 to 7




次のムードをいち早く察し、お客様が欲しいタイミングでご用意することができるのがセレクトショップとして良いお店の条件だと思います。



それは、言い換えると早すぎても遅くてもダメというシビアな見極め勝負で、紙一重の差でお店のセールス実績も変わるというから我々もボーッとしていられません。



レザーに目をつけたのは、今から3年くらい前でした。



古着を扱うべシックスでは毎回アメリカで様々な種類の古着を買ってきますが、いつも買い付け前にある程度の目星、つまり、どんなモノが見つかった時に買おうと決めてから日本を発つようにしていました。



7:2:1というバランスで大体の買い付けイメージをするのですが、7はリリースのタイミングでお客様が求めると予想する、古着に一番求められる現在トレンドの要素を持った商品。



2は、お客様のニーズは一切無視して私が個人的に欲しいもの。



そして、残りの1は今後必ずトレンドが来るとは思うが、今リリースしても然程売れる見込みがない実験商品という位置付けで、デザイナーズブランドなどでもし今後同様のテイストをバイイングできるチャンスが訪れた時に踏み込むかをテストするために、先に手の出しやすい古着でお客様の反応を見る…というような目的のものです。



当時、私の中ではレザーが1の位置付けでしたが、予想通りと言うか、その古着は全くと言って良いほど誰からも相手にされず、笑えるくらいに売れませんでした。



私はただの独りよがりだったのかを確認する意味で、その中の1点を自分用としてピックアップししばらく着続けてきましたが、間違いなく新鮮に見えるということ、やはり今後レザーがいちトレンドとして台頭してくる事は早期の段階で確信していました。



しかし、2018年頃からそろそろと思っていたレザーのピントが合うまでには想像以上に時間が掛かったというのが正直な感想で、やはりレザーは歴史的に難しいという事をリリースを決めたいまこの瞬間も感じています。





さて、まさに今、というタイミングでデザイナーズブランドでもなくINDUSTRIAでレザージャケットを作りました。



今回は、私が過去にアメリカで見つけてきたヴィンテージのスポーツジャケットと、世界的マスターピースから大枠のデザインを拝借した、シンプルながら細かいこだわりを込めた一作です。



まず、大題目となるレザーは日本の大手生地商社が開発した、まるで本物に見えるハイクオリティーのシンセティックレザー(合皮)を採用しています。



”ナッパ”と聞いて、ピンとくる方はレザーの知識があると思いますが、いわゆる天然の高級皮革のファーストタッチに近い、驚くほどに滑らかで革製品特有の荒々しさとは対照的なムードを持った、品格漂うあの雰囲気に似た合皮です。



近年、エシカルという観点からも本革を使うことへの賛否がありますが、頭の良い繊維メーカーからは本革よりも現代的価値の高いエコレザーやリサイクルレザーなどが次々と開発され、本革でなければならない理由がどんどん少なくなってきています。



合皮というイメージに対して、オールドスクールの方々からは今なお懐疑的な声が聞こえてきますが、デジタルの進化と同様に近年のテキスタイルメーカーの進化は著しく、いわゆるフェイクと言われていたような素材が我々モノ選びの専門家である立場でも一瞬見紛うような精巧なレベルにリーチしています。



もはや、地球規模となった温暖化問題に密接に関係する温室効果ガスを排出する畜産業なども急激な変化を見せている今、より環境問題への責任が追求されるファッション業界で今後リアルレザーの普及が加速する事などあるわけがない中で、素材のプロたちがいよいよ本気になって取り組んでいる発展途上中の素材、それが今最も注目されているシンセティックレザーなわけです。



特に、今回の商品の場合は、経年変化が起きにくくどこか獣の雰囲気が削がれた化学繊維独特のムードがむしろ今の気分に対して歓迎でもありましたので、このタイミングでべシックスも最良質のシンセティックレザーを採用することにいたしました。





ここで、2年ほど前から本革のGジャンを着続けて感じたことを端的にまとめると、



1:重かった

2:Gジャンとレザーという組み合わせは相性は良いが、ディティールはGジャン以外が良い

3:本革のシワ感や体型に即して変形していく経年変化が少し邪魔に感じた



の3点でした。



そこからまず、古着の中で手持ちのBIG EのGジャンをサンプリングして、王道たるバランス感覚は忠実に拝借するように心がけました。



クラシックなGジャンの着丈の短さや単純なパターンは合わせにくさを感じる一番のポイントですので、それら細かい点は一つ一つ丁寧に潰していきます。



そこから、太めのアーム、ゆったりとした腰回りなどのボリューム調整を行いますが、古着でストレスを感じた重さを解消しようと薄い素材を選んだことから今度は生地が落ち過ぎてしまう問題が発生したので、内部に芯材を仕込んで全体のフォルムがしっかりと浮かび上がるように1mm以下の単位での厚みのコントロールをした点は、生産をしてくださっているデザイナー様のセンスが極めて光った部分だと思います。



そして、シルエットのアウトラインができてからディティール面に取り掛かっていきますが、シンプルな中に僅かな違和感が欲しかったので、そこも手持ちのビンテージウェアからデザインの要点を頂いています。



アメリカのビンテージに見られる合理性というのは、時折雑と表現される場合もあれば、図らずもムードとして輝く瞬間があります。



意図しないことがデザインとなったそれにくすぐられる…というような事は、昔からの古着男子あるあるだと思いますが、時代が変わった今でもそこはやはり変わらない良さです。





例えば、本来なら丁寧に腰ベルトの裏までジッパーを伸ばしていくべきところを、ベルトはスナップで止めれるという理由からジッパーはベルトの上に根っこがくるようにデザインされている…なんてことは、ヨーロッパの古着などには見られないアメリカ独特な合理性だと思いますが、そういうところもなぜか味わいとして製品のムードになっているのが今見ても面白いと感じます。





袖のカフスもベルトの長さが足りない、Gジャンなどと比べると寸足らずな仕様になっていますが、これも袖を振って肘の丸みを出すようなパターンではなく、足りない生地をちょっと引っ張ってボタンを留めれば丸みが出るという言わば手抜きな仕様で、その平面的な作りがボリュームあるシルエットには妙にマッチするのです。





但し、ただ平面で簡素な作りではダメなので、襟の収まり具合や開き方などは、しっかりと立体裁断で大人の皆様に落ち着きが良く感じて頂けるように設計しました。



色々とまだご説明したいことは多々ありますが、プロダクトについて語るのはこれくらいにして、店頭ではお客様のスタイルのお話へと続けていければ私としては嬉しい限りです。



まだまだ弱小のベンチャーブランドですが、INDUSTRIAをこれからも宜しくお願い申し上げます。




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