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  • 執筆者の写真Toshiya Kakuchi

COGNOMEN




2020年2月5日。



ベシックスのcontactツールからメッセージの着信音が鳴った。



そこには、



「【COGNOMEN】立ち上げのご報告」



と書かれていた。



続けて、



「昨年8月に6年間勤めましたFACETASMを退社致しまして、自身のブランドCOGNOMEN(コグノーメン)を立ち上げました。ラテン語で"ニックネーム"という意味です。」



ありがたいことに日々新しいブランド様からのお誘いを頂くが、様々な理由から殆どをお断りしている。



しかし、今回はピンときた。



「FACETASM」というブランドから独立し新しいことを始める方がいる、というだけで世の中のメディアはまた記号だけを切り取って無責任に持ち上げるだろうとは思ったが、私はメールの冒頭に貼り付けられた見覚えのないメダルと「COGNOMEN」、そして最後に綴られた「大江マイケル仁」というデザイナーの名前が意味するところを想像するだけで心が躍った。



「大江 ”マイケル” 仁」さんは、その名の通りイギリス人と日本人のダブル。



早速、ベシックスのような小規模ショップへご連絡を頂いたお礼とともに、毎回必ずお尋ねする「何故、ベシックスに声をかけて頂いたのか?」だけは速やかにヒアリングさせて頂き、違和感のないお返事だったこともあって展示会へお邪魔させて頂くようアポイントを入れた。



展示会で初めてお会いしたマイケルさんは、まだ27歳ということを疑う余地もない礼儀正しさと清潔感が漂う、明らかにこれからの時代を切り開こうとする強い目をした男性だった。



この「COGNOMEN」というブランドの目指すところをヒアリングしたところ、第一に少年時代からのルーツとなるサッカーやスポーツマンシップまでも含めた「ユニバーサルなデザインや思想」に対するリスペクト、加えてベースとなる部分は長く伝えられてきている洋服や文化への理解ということだったので、つまりはベシックスと同じく「トラディショナルの進化」というベクトルを持っていることを確認できた。





そこで気になっていた、真ん中で色が分かれたメダルのことについて話を聞いてみると、1936年のベルリンオリンピックで、棒高跳びの日本人選手2名が長時間の競技の末に同じ記録で順位が決まらず、結果的に同率2位になるわけだがオリンピック規定に同率の概念がなかったことからやむなく年長者に銀メダルを、そしてもう一人に銅メダルを与えることでその場を終えたというエピソードだった。



そして、その話には続きがあり、帰国後2人はそのメダルを半分に切断し銀銅メダルとしてお互いが所有し称え合った、という美談から「美しい2面性ある商品」を作るに至ったという。



この2面性(AとBのドッキング、或いはリバーシブル)というテクニックは、もちろんFACETASM時代に培われたものであることを無視できないが、COGNOMENのプロダクトが意味するレイヤーには他とは違う奥行きがある。



例えば、ベシックスが取り扱うスクールストライプ (クラブストライプ )を配したブルゾンは、英国起源のスクールジャケットに多用されたCLUBの色をあしらったストライプ柄を、同国起源のハリントンジャケットに落とし込み、そしてそれをリバーシブルによって2面性にしているレイヤーの効いた商品だが、よく見ると無地側の生地にはベースボールキャップやワークウェアなどで通気口として使われる菊穴がデザインとしてあしらわれている。



また、同じくスクールストライプをあしらったパンツの裏面にはリサイクルポリエステルのフリースを配することで今度はアウトドアの要素を巧みに入れ込み、スウェットのように見える杢グレーのカットソーはサッカーのゴールキーパーが肘当てに使うサポーターを思わせるような切り替えが潜んでいる。





この時点で、COGNOMENが27歳の若きデザイナーの生い立ちやリアリティに溢れたものであることは十分にお察し頂けたと思うが、彼やコグノーメンのブランドポリシーを語る上で最後に技術とセンスについても触れておきたい。



それは、マイケルさんが最も得意とするニットにも現れているが、肌触りに影響しない特殊なラメ糸を絡ませたアランニットに編み地を駆使して11番の背番号を持たせるという、文字面では簡単に見えるがかなりややこしいことをしている点にも現れている。





漁師の防寒着としてアイルランドで生まれたアランニットを現代に蘇らせるとき、かつてこのようなアプローチをした人たちがどれだけいただろうか。



COGNOMENが最初にメールをくれた時に添付されていた写真には、ファッションのブランドとしてはあまりにも洋服そのものの情報が欠けていたが、私はそれがコンセプトから組み立てられていくブランドであることを察していたし、実物を手にしてその目に狂いはなかった。



その後、間も無くして私の洋服人生で絶対的な存在である師から一本の電話が掛かってきた。



「良いところに目を付けたね、あのブランドは必ず成功するよ。」



私が師の着眼点と同じであったか定かではないが、ただ一つ確実なことはCOGNOMENの世界観にクリエイティブの針が動いた人は私だけではなかったということだ。



この秋冬シーズンの目玉の一つであるCOGNOMENが皆様にご理解頂ければ嬉しく思う。




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