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  • 店主 角地 俊耶

COOHEMに学ぶ


COOHEM(コーヘン)というブランドはご存知でしょうか。

東北は山形に本社を構える米富繊維株式会社は1948年に大江商店としてスタートして以来、3代に亘って続いているニットメーカーです。

そんな同社が満を持して2010年から始めたファクトリーブランド、それがCOOHEMです。

Bechicsで2018年秋冬シーズンから新しく取り扱いを始めることとなったこのCOOHEMについて、このブログで書き綴るまでに様々な思いを馳せ、私自身が改めて服やファッション、少し大げさに言えばファッションビジネスにまで、様々に考えたことなどを率直にお話したいと思います。

複数回に分けて書くブログでは、毎度のように商品の細部や難しさにフォーカスしてしまうある意味悪い癖が出る前に、私がCOOHEMについて思うことをまず書くことにしました。

「おもしろいもの、見たことがないもの」

私はBechicsの経営者でもありバイヤーでもありますが、単なる服好きの少年(年齢はさておき)である一面が実は一番大きく、それが転じてこんなことをしていると自分で思っています。

ファッションによって生きることが楽しい、うまくオシャレができた時には今日一日がいい日になりそうな気がする、そういう感覚がこれだけたくさん安い服が存在する現代においても繊細にこだわる理由だったり原動力になっていると思いますが、ファッションが”中毒レベル”で日常に溶け込むと「おもしろいもの」や「見たことがないもの」というだけで気分が高揚し、自分に合うことを想像する以前に着てみたい感覚や、ある種のコスプレかもしれませんが、それを着た自分と出会ってみたいという感覚になるときがあります。

ところがそういうものは滅多に出会うことができないわけで、逆にやたらと新しさを謳うアヤシイものや新しいはずがあっという間に世の中から消えてしまうものが多すぎるため、今はもう新しいものなんてないなど言われたりするくらいです。

しかしそれも今の早すぎる世の中が生んだ悪しき副産物であって、コレクション発表直後から情報が伝わり(或いは未来に買うはずの服が今すぐ買えたりもする)、実際に手にする頃には既に次の新しいコレクション情報が入ってくる、そんな落ち着いて味わうことすらままならない状況と、目の前にある素敵なものへ集中できない浮気症なミーハー精神が招いた「新しいものがない」というパラドックスなのかもしれません。

「より高品質に、より高感度に、より目新しく、より洗練され、進化し続けること」

先代となる2代目、米富繊維の現会長の言葉らしく、この言葉を目にした時にCOOHEMの商品を初めて見た時の感動が何であるかを理解したような気がします。

交編(=COOHEM)とは、編み物の世界で言えば2種類以上の糸を混ぜて編んだもののことを指し、COOHEMブランドの世界観の話をすると広義には技術や感覚、時代や伝統、現実と非現実など様々な要素をミックスさせることでの斬新なケミストリーを表現するということを仰っていると理解しています。

60年以上も続くニット専業の会社が培ったノウハウと、日々進化する人が常に今最適なものは何であるかを緻密に突き合わせていく中で生まれる答え、社員が一丸となって必死に絞り出していった結果がCOOHEMのプロダクトであって、それらが発するどこか新しい表情は確かな品質や技術に裏打ちされたものであると同時に、常に自分たちの限界を超えたいという飽くなき探究心から生まれていることは凄さや素晴らしさという一言では言い表せないほどに、ただただ感動を禁じえません。

見るほどに、知るほどに、この新しさは昨日今日で生まれたものではないということがわかります。

「ニットの限界を超えたニット」

ここでは敢えて「当然」と書きますが、季節の洋服としてのイメージが強いニット。

多くの方にとっては冬服であり、夏に着る機会が少ないアイテムではないでしょうか。

今でこそサマーニットという言葉が一般化されていますが、それすら常識はずれであった時代に米富繊維は夏に着られるセーターを開発し、その技術を広く伝えた実績を持っている会社です。

しかしまだまだニット製品の壁は様々なところに存在します。

例えば、ニットは編み物であることから当然編み物を作る作業工程を踏んでいきます(織物と編み物の違いを語り始めると長くなるので種類が違うということだけご理解ください)。

かなり端折ってお話をしますが、COOHEMはニットの要素を入れた織物を作ったりすることができるので、編み物としてのニットでは表現できないような顔つきの商品を開発できています。

つまり、一般的なニットの多くがセーターやカーディガンのようなアイテムに落ち着く中で、COOHEMはジャケットやコートなどのアイテムをニットの表情で作ることに成功しているという点がひとつ明らかな違いと感じさせます。

上記はあくまでCOOHEMがどれだけ自由にニットを操るブランドであるかをご説明する一例にすぎませんが、常にニットの限界に挑み、新しい技術と創造性をもって感動的な製品を作られているブランドだということです。

私もこの業界に就いてもう20年が見えてきた頃で、リーマンショック以降続く世の中のネガティブなニュースや自然災害などの制御不可能な現実に毒されすぎたところもあり、常にファションを前向きに捉えたいと思いながらもどこか逃げるような、お客様に感動を届けなければならないことを忘れ、目先の売り上げや安全性の高い商品を探すような癖も僅かにあろうかと思います。

そんな私の意識にふと問いかけるように、展示会にて目の前に広がった素敵な商品たちを見た瞬間、月並みですが本当に霧が晴れるようにただファッションが好きであることを思い出し、素直に着たいと思うことの素晴らしさを改めて感じたような気がしました。

ファッションは楽しい、良いファッションは毎日を明るくする。

ファッションには、生業にしている私でさえまだ気付いていない素晴らしさが存在するんだと。

COOHEMにはそんな原点とも言えることを教えて頂いた気がしますが、奇しくもCOOHEMの2018年AWのシーズンテーマが「FIND THE ROOTS」でした。

私も原点に立ち返って、もう一度ファッションを一から楽しみ直すシーズンにしたいと思います。

-第二回につづく


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