CINOH(チノ)というブランドとは、実は初めてのお付き合いではなく私にとっては再会にあたります。
2014年春夏にレディースオンリーのブランドとしてスタートして以来、大手セレクトショップなどでは常連ブランドの一つとして一気に知名度を高めたCINOH。
前職の時にレディース商品をお客様へ販売させて頂いた経験もあったので、CINOHの魅力は予てから理解していて、今春待望のメンズラインが始まったその2シーズン目となるタイミングで是非弊店で展開させて頂きたいと申し出た次第です。
「チノ」という響きから、誰もがチノパンのようなトラッドなイメージを想起されると思いますが、デザイナー茅野誉之(チノタカユキ)さんのチノであって、いわゆるチノパンのそれではありません。
弊店はベーシックが一つのコンセプトになっていて、普遍的な価値や伝統を守り重んじる姿勢には、時に頑なとも思えるこだわりがありますが、このCINOHというブランドはそういった事を踏まえつつ華麗にブレイクスルーしていくアプローチが一つの特徴です。
茅野さんは、私より少し若い男性で、無地のTシャツやシャツに紺のパンツというようなスッキリした格好をいつもされていて、信じられないハナシですが今までLevi'sのGパンを履いたことがないと言われます。
洋服に強い興味を持った頃には、ヘルムート・ラングやラフ・シモンズ、マルタン・マルジェラ、ドリス・ヴァン・ノッテン、エディ・スリマンが就いていた頃のDior Hommeなど、欧州のトップクリエイターたちが発信するクリエイションと、メタルミュージックなどのカルチャーへ傾倒し、所謂アメカジやトラッドのような類いの洋服からは最も遠い距離感にいた過去がCINOHのベース。
服装史やカルチャーを理解しながら伝統に縛られず、自由な発想を持ってファッションを創ると仰る茅野さんの言葉通り、CINOHの商品には様々な創造性と”不可能を可能にするような技”が巧みに入っていて、生粋のメンズデザイナーはしないような(頭で思っても性分的にできない、という方が正しいかもしれません)レディース仕立ての柔軟な服作りがとても面白いと感じます。
バラクータジャケットを象徴するアンブレラヨークの付いた、ラグラン袖になっているライダース型ブルゾンや、モッズパーカとステンカラーコートのどちらにも見えるようなフーデッドコートなど、ハイブリッドに創り上げていく方法論も楽しいところですが、CINOHの独自性を感じるところは、例えば袖を太長くし、”コマガタ”と呼ばれる袖幅を調整するフラップが通常よりも強く絞れるように設定することで生まれるフォルムの変化の妙にもあるような、今の気分をとらえた大胆なイノベーションがありながら最後は普通に着やすい服に着地させてくれる巧さで、大人っぽい引き算のデザインにはいつも感心させられます。
茅野さんが好むインポートブランドの袖が長いという特徴は、今まで日本人が憧れと現実の差で苦しめられたカッコイイデザインでもありましたが、初めてそれを受け入れても良いと思える斬新な切り口にはCINOHの巧さとらしさを強く感じます。
早いもので、先日19年春夏のコレクションを拝見させて頂いた時にも感じたCINOHのインポートっぽい雰囲気の理由がどこにあるのか?を茅野さんにお尋ねしたら、
「説明になっていないかも知れないですが、僕は日本の製品も好きでよく見たりはします。でも、結局あまり買うことがないのは使っている生地が僕のイメージではないんですね。逆に、インポートは形が何とかならないものかと思うことが多くて、それがCINOHには反映されていると思います。」
ということでした。
CINOHの服はハンガー面(ハンガーに掛かっている状態のルックス)が良く、一つ一つの商品が正当なイケメンであることを思わせるものが多い、言わばモテ服にも近い雰囲気があります。
モテ服と言うとファッション好きからは少し斜めから見られてしまいそうですが、男性よりもはるかに繊細な美しさに厳しい婦人服で培われた服作りへの理解度であって、その一つと感じるところが独自のカーブ。
フロントのジッパーを開いた時に、どこで止まって、ジッパーの角度がどう見えるか?や、開いた時にジッパーとポケットの角度がさりげなく平行になるようにしていたり、生地の膨らみ、動作に伴う生地の動き方などにも強いこだわりが感じられますが、洋服の角になる部分の尖り方(丸め方)など、よく見るとミリ単位の繊細な調整をして全体の雰囲気が作られています。
襟の形をしたフードは、フードの立体感とコートの襟を立てた時のキマリの良さを両立させたデザインですが、指でなぞっていくとどこまでが襟でどこからがフードなのかの境界がない、そのような感覚的なディティールもCINOHの特徴です。
そして、今回様々な商品に配されたキーカラーとなる赤色使い。
強さの象徴であり、色を作る基礎ともなる色。
それは、理由なくただ美しいものをつくりたいというCINOHの決意にも見て取れます。