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  • 店主 角地 俊耶

Between A and B


理由はさておき、何となくこのブランドの服が好きという感覚ってあると思いますが、私の場合それがtim.でした。

形がきれいで、でもどこか抜けている。

抜けているように見えて、仕立てが良い。

きちんと仕立てて、ルールを破る。

全てが満たされているものよりも、意図的に一部を欠落させたものに魅力を感じてしまうのは昔からの癖ですが、tim.の服には私のそんな感覚をくすぐる何かがあります。

先日、とある打ち合わせのために弊店までお越し頂いたデザイナーの松村大基さんに直接お尋ねしてみました。

ついに18SSのラインナップが全て揃ったtim.の商品とともに、インタビューの様子をご覧ください。

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角▷ 今回のコレクションだけに限らず、tim.の一番見て欲しいところはどこですか?

松▶︎ 答えになっていないかも知れませんが、いつも頭にあるのは「Between(間)」です。

角▷ それは、松村さんが得意としているドレスとカジュアルのBetween?

松▶︎ それももちろんですが、他もそうです。例えば、これまで見たことがないような軽い素材に乗せる柄はクラシックなものであったり、シルエットを作る上では70年代くらいのウィメンズの”V”というブランドや、カクチさんにとってはあまり身近ではないと思いますが、フランスの”A.M.B”というブランドがあって、それらが用いた方法論を現代的なアイテムで表現したり…ですね。

角▷ それは知りませんでしたが、たしかに今見てもびっくりするくらいカッコイイですね!そして、この写真を見てからtim.を見ると今までとは全く違うイメージで接するようになります。松村さんは私と同世代ですが、少し目線が高いというか、私よりも年上の方とお話をしているような気がします。

松▶︎ おそらく僕の父の影響もあるんだと思いますが、家には今では歴史的な資料と化したようなブランドや洋服が実物として残っているので、そういうものに囲まれて育ったからか自然と私の嗜好もそっちに寄ったのかもしれません。でも、実際のところ私の友人たちはストリートブランドやDCブランドみたいなものを着ていたので、そちらもリアルです。

角▷ 話は戻りますが、どうして松村さんの洋服はカジュアルなアイテムでもきれいに見えたり、しっかりした仕立ての服がカジュアルに見えるんですか?

松▶︎ 一つのアイテムの中に、二つの要素を入れたりしています。どういうことかと言うと、例えばこのサファリシャツは、首から肩周りの部分をジャケットの構造に近づけているので、通常のシャツよりも収まりがいいはずです。でも、あまりカッチリしすぎるのは着にくいので、袖はジャケットの手法を使わずストンとした形にしたり、素材で動きが決まりすぎないように設定しています。

角▷ ほ〜笑、それと私はこのセットアップが異常に好きなんですが、何と説明すれば良いのか不思議な美しさを持ったシルエットですよね。

松▶︎ パジャマみたいに着られる本当に軽いセットアップを作りたいとイメージして作った品番です。このセットアップで使っている素材は、何年もテストを繰り返してようやくできたお気に入りのものでして、なかなかこれは普通に作れるものではありません。シルクとキュプラを使っているのですが、キュプラのトロッとした繊細なタッチと動きは残しながら、シルクはストレートとスラブ(凹凸のある糸)の2種類を使って、ところどころにザラつきが生まれるようにしているのですが、肌当たりも良くフワッと浮くような軽さと独特なカサっとした風合いがこだわりです。もちろんセットアップとして肝心な作りについては、要点を押さえてきれいに見えるようにしました。

角▷ このトロピカルウールのイージースラックスも独特ですよね?

松▶︎ これも普通に見えて実はとても手が入っています。形はウチが得意でお客様からも好評を頂いているアウトプリーツのテーパードシルエットですが、素材を通常のトロよりも落ち感が出る特殊な加工を入れて緊張感のある形をルーズに履けるように、うまく大人が履くレベルを保った形で作りました。

角▷ 展示会で見たときにやはりそうきたか、と思ったこのブルゾンはNIKEなど私もリアルに着ていた世代で馴染みがある形でしたが、どこをどうアレンジしたのでしょうか?

松▶︎ 一見スポーツブランドにあるようなものにも見えると思うのですが、実はこのブルゾンは全くそういうものではなく、さきほどお話をした70年代の"A.M.B”などのシルエットからインスピレーションを受けて作りました。

角▷ …!!そうだったんですね。てっきり今っぽくアレンジしたものかと勘違いしていました笑

松▶︎ 私だけでなく、ヘルムート・ラングやラフ・シモンズなどもきっと一部影響を受けているように思いますが、ボリュームの取り方が大胆でありながらものすごくエレガントでカッコイイんです。

角▷ 実際にそのあたりのものもお家にあるんですか?

松▶︎ いえ、さすがにそのあたりのものは少ないですが、私がいつも読んでいる昔からあるフランスの女性誌に乗っているスタイルなどはいつも参考にしています。

角▷ これはどういうものなんですか?あまり見たことがない表情の素材ですが。

松▶︎ これは、少し前に改めて古着を見直すきっかけがあって、もともと僕は古着も好きなんですが当時の生地を再現したくて手持ちの古着の生地をバラして研究した素材を使っています。基本的にメランジ感のあるヴィンテージシャンブレーがベースですが、こだわったのは独特のかすれた表情が現代のものと違う点を表現したくて、そういう雰囲気の出る超長綿を探して、それを低速のシャトル機でゆっくりと織り上げてわざと不均一な顔つきになるように設定しています。あとは、綺麗な仕立てで形を作っていくと自然と上品な古着のような顔つきになるので、大人の方にオススメして欲しい商品です。

角▷ 先日の18年秋冬の展示会では、好みのものが多すぎて選ぶのが大変でした(笑)

松▶︎ カクチさんお店は大人のお客様がいらっしゃるようなので、やはりトラッドなものや質感の良いものがわかるお客様が多いみたいですね。それはウチとしてもご理解頂けるととてもありがたい部分ですが、わざとわかりやすくしていない部分もあるので説明するのも大変だと思いますが、大丈夫ですか?

角▷ 私が予め勉強していれば良いのですが、tim.はちょっと苦戦することも多いですネ(汗)

松▶︎ 僕もあまり話す方ではないので、聞いてもらって初めて…みたいのも多いですから。でも、必ずどこかにtim.らしいひとヒネリを入れていますので、興味を持って見つけて頂けるとありがたいです。

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実はこれ以上に様々なお話を伺うことができたのですが、一応業界人の私にお話して頂くにも咀嚼しなければならないような複雑なギミックなど、ブログのテキストでお伝えするには限界を感じる内容でした。

ドレスやクチュールのエレガンスが見えている松村さんが作るtim.には、ただそれだけではないTAIKI MATSUMURA自身が見てきた”イマ”を振りかけたり、時に大胆に削ぎ落としたりするハイブリッドでBetweenなセンスが入っています。

そして、その感覚をしっかりと形にする腕前も持っているtim.の服は、見た目勝負のものとは一線を画した、稀有な信頼できるプロダクトだと感じています。

Bechicsにお越しになる良いものを知っている大人の皆様にオススメしたい、新しさと歴史の両方が感じられる非常にオススメのブランドです。


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