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  • 店主 角地 俊耶

Wear, not War.


約2週間のロサンゼルス買い付け出張では、様々な品物を発見して帰って来ることができました。

営業を再開してから1週間が経ち、ご来店頂いたお客様からは「この前来たんですけど閉まっていました〜笑」なんてこちらの失礼を笑顔で許して頂く始末で、改めて弊店は皆様に支えて頂いていることを切に感じております。

さて、たっぷり充電させて頂いたからには良い商品をいち早くご用意せねばと、特急の船便にて届いたダンボール5箱程度の”成果”をクリーニングに出し、ようやく見ごたえのある商品をお店に並べ始めました。

今回の主目的の一つとして据えていたミリタリーやワークの様々なコートは、カリフォルニア中を探し回って買い付けてきました。

単純に、ここ十数年あまりピンとこなかったミリタリーウェアですが、近頃非常に気分です。

ところで、歴史あるこの「MILITARY(≒国家が調達した戦闘服)」というカテゴリーは、日頃から皆様が着ている洋服の原型となっているものが多いというのはご存知でしょうか?

有名なお話ですが、スーツはもともと立ち襟の軍服が時間とともに変化した洋服であるということや、学ランと呼ばれるあの黒い詰襟の上下ももともとは欧州の軍服が由来しています。

よく考えると学ランってなんなの?っていうことを思ったことがある方も少ないと思いますが、身近にありすぎて普通なら違和感を感じるような洋服が「こういうものだ」とされているのは歴史的な背景が起因しているケースが多く、もともと軍服だったものがグラデーションのようになだらかに変化をしながら続いているわけです。

さて、脱線しそうなお話をもとに戻して、コートにまつわるご説明を。

軍用コートの歴史は長く、その形もさまざまです。

今回メインでご紹介する2つのコートは、ともに欧州(英国・仏国など)が起源となる有名なモデルで、トレンチコートとステンカラーコート。

トレンチコートは、トレンチ(Trench=塹壕)で戦う陸軍士官が雨や寒さから身を守るために着用したロングコートのひとつとして第一次世界大戦期に生まれたもので、前身頃の打ち合わせが重なり合うダブル仕様になっている最も有名なモデルの一つ。

肩に取り付けられたエポレットは、士官が移動時に携帯する物品を吊り下げるための役割や、負傷した仲間を銃撃などから速やかに退避させる時に引っ張る持ち手の役割も果たしていました。

もともと雨風を凌ぐための目的もあったトレンチには、今のようなハイテク技術がない中で物理的に雨が染み込んでこない工夫が必要でした。

その頃に生まれたのが「ギャバジン」という超高密度に織られた生地で、有名なバーバリーが開発者でありその防水性と堅牢度が高く評価され、アクアスキュータム(aqua=水、scutum=盾)社と共にイギリス軍兵士を支えたことはあまりに有名です。

そして、コートのデザインにも様々な工夫がなされ、襟周りに備わったチンストラップは防風をサポートし、右肩にあるペラペラとした生地(ストームフラップと言います)も雨の侵入を阻むために取り付けられた意味のあるディティールです。

もう一つのステンカラーコートは説明の必要もなく皆様にとって馴染みのあるモデルかと思いますが、このコートもまたミリタリーが発祥のアウターです。

”ステンカラー”というのは、諸説ありますがスタンドフォールカラーが訛った和製英語というように言われていて、よりクラシックに表現するにはバルマカーンと呼ぶのが良いとされています。

また、バルマカーンとはスコットランドのある地名で、19世紀中期よりこの地で着用されたラグラン袖の末広がりで七分丈程度のコートがオリジナルとされていて、それがシンプルにアレンジされたものが現代のタウンコートの代表格として広く使われています。

ともにゆったりとした設計であるのは、大量生産していく中で体型を選ばずどんな人でも着られるようにという合理的な考えであったわけですが、ビッグシルエットが大流行しているいまこの形を見ると妙にしっくりくるのは私だけではないはず。

また、前述のように打ち込みの良い(織密度が高い)素材ならではのクリーンでシャキッとした顔つきは、弊店でお取り扱いするブランド様が昨今多用される生地に共通する雰囲気を持っていて、そこもまたこれらの商品をピックアップする理由になりました。

それともう一つ、昨年の途中からぼんやりとしていたイメージが確信に変わりつつある新たな気分が「膝下丈」です。

すでに女性服では様々なロングシルエットの商品が出回っており、カジュアルなアウターでも着丈が長くなることで随分大人っぽく(エレガントに)感じられたり、ワイドシルエットに慣れてきた方々がそのエクストリーム感に味を占めて次は長さに移行してきているようなトレンドが散見されています。

ある種の絶対領域であった「膝」を超えた長さは非常に新鮮であり、また、クラシック(正統性のあるスタイル)への回帰でもあります。

ミリタリーが原型のトレンチ(ステンカラー)というワードは、ブランドや様々なショップが作るオリジナル商品に頻繁に使われていたにも関わらず、私の周りの知人や友人、洋服関係の仕事に就いている方ですら原型をしっかり見たことがないという話を聞きますが、いま改めてこれらの品物をご提案すると新鮮に映るのではないか?との思いで探してきた次第です。

この写真は、これらのコートのポケットから出てきた当時に突っ込まれたままの色々なゴミ?です。

古着ならではの、こんなストーリーを感じる面白い一面がまた、このコートを引き立てているような気がしてクリーニング前に全て大切に保管していたものをお店の壁に貼っています。

戦争は2度と繰り返してはなりませんが、戦いのために作られたものをファッションに昇華し反戦のメッセージとするのは大いに賛成だとして、久々にミリタリーの気分をしっかりと表現してみることにしました。

皆様で、Happyで、Chicに、ミリタリーを楽しんで頂ければ幸いです。


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