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店主 角地 俊耶

良い造りと裏切りの服


このブログでも何度か書きましたが、もともとスーツの販売をしていた経験もあるワタクシ。

中高生のときはお金もなかったのでほとんど古着を着ていて、社会人になってからは会社で様々な有名なカジュアル服やデザイナーズブランドを販売し、時にレディースの洋服の販売もしながら常にスーツを売っていた…という経歴です。

色々経験してみて後からわかったのですが、私はメンズファッションの特定の何かが好きというタイプではなくファッションそのものが好きなので、カジュアルもドレスも、メンズもレディースも関係なく、強いて言うならそれらが心地よく混ざり合っているような状態が最も好きです。

そういう意味では、mandoとLevi'sの共存や、AURALEEと古着の共存も自分の中では違和感のない、自然体であるという感覚なのですが、もしかすると私と近い感覚(おこがましいので注釈入れますが、あくまで好みという意味)でモノを作られているのではないか…というブランドが今回ご紹介する「tim. TAIKI MATSUMURA」です。

まず、もともと「tim.」というブランドで活動していたこのブランドネームに「TAIKI MATSUMURA」が加わった経緯をお話ししておくと、特にブランドのコンセプト云々に変更が発生したわけではなく、海外展開によくある商標的な問題によってデザイナーの名前を加えた、ということですので、表示は「tim. TAIKI MATSUMURA」としていますが、「tim.(ティム)」と呼んで良いと思います。

tim.の特徴を端的に言えば、”プロダクトそのもの”がドレスダウンであるということ。

どういうことかと言うと、所謂ドレスダウンという言葉の一般的な解釈は、ドレスのアイテムを使ってカジュアルな着こなしをする(=スーツなど用途のあるアイテムを使って別の着こなしをする)、というようなコーディネートを指す場合が多いのですが、tim.の場合はプロダクトそのものにドレスダウンの感覚が盛り込まれている、ということです。

わかりにくいので、もう少し具体的にお話ししましょう。

tim.のジャケットは、もちろんテーラリング工場で作られているものも多く、芯材が入っている商品も少なくありません。

そういったわかりやすい材料的なものもそうですが、設計においてもテーラードのテクニックが色々盛り込まれているので、軸足がドレスにあることがよくわかります。

tim.の場合、例えば上質なウーステッド(梳毛ウール)を使って美しいブラウンのジャケットを作っているのですが、流して見ると、ラペルの返りがキレイで、袖が本切羽(ボタンホールが開いている)になっている普通の上品なジャケットという印象です。

しかし、よく見るとフロントのボタン位置が低く、通常の3ツボタンジャケットでは見られないVゾーンの広さが特徴的です。

これは、2ツボタンの開きに感じる適度なスッキリ感がありながら、3ツボタンのクラシックな雰囲気を両立させるデザインとしても一役買っているのですが、それ以外に視覚的にバランスの重心が下になるようにコントロールされているデザインです。(ボタンの止め位置は上一つ掛けでも着れて、ラペルの返り点はナント1つ目と2つ目の間に!)

言われなければ気付かないような微調整ですが、実際に着ている姿を見ると確実に違う、パンツで言えばコシバキのような効果がそこにはあります。

また、背中を見ると通常あるばずの背中心の接ぎ目がなく、ベントなしの一枚で取られた生地は、最もフォーマルなノーベントの意味でもあり、視覚的にはカーディガンのような丸みのあるフォルムが生まれるデザインになっています。

さらに、薄くて軽いウーステッドでもしっかりと形が出るように、脇には細腹(サイバラ)を入れて立体的にしているかと思えば、全体のサイズ感は通常よりも2サイズ大きめに作っているなど、その足し引きの面白さには思わず唸ってしまいます。

また、あまりテーラーのブランドが使わないような大胆なテクニックも魅力の一つ。

例えば、すでに完売してしまったカシミヤ混のフェルトジャケットは、軽さを出すためにコバ部分が断ち切りになっていたり、丸い膨らみがでるように反発性のあるテープを袖と毛回しに巻いて、着用時にさりげない立体感が生まれるようにしているなど、アイディア自体があまり見たことがないような自由性もある、そんな素晴らしい創造性もtim.の良さです。

昨日入荷した、80年代のトレンチコートをモディファイしたビッグシルエットのコートは、組下のパンツと同じコットン&ウールの上品に入った綾目が特徴の、生地自体がカッコイイ今季オススメのシリーズですが、やはりこれも一筋縄ではない、面白いテクニックがいくつも入っています。

色々語るとさらに長くなるので今日はここまでにしますが、私がtim.と感覚的にマッチする部分が多いのは、デザイナーの松村さんと同世代で見てきたものが似ているいうこともありますが、一番tim.の良いなと思うところは、美しく作り上げて最後にハズしてくれているその感覚だと思います。

松村さんが最近よく読んでいるというフランスのレディース雑誌の名前が思い出せないのですが…汗。それもまた、追々皆様にご紹介しますね。


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