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  • 店主 角地 俊耶

INDUSTRIA BLACK 357


通称「BLACK 357」と呼ばれるアメリカ軍が1997年に1年だけ生産していたBDUジャケットがあります。

SWATや仮想敵部隊などが着用するために作られたそれは、官給品の長い歴史の中でも類を見ない黒いBDU。

色としての黒や、ミリタリー特有のミニマルな雰囲気、季節を問わず長く着られる利便性などとても今の気分に合っている素晴らしいアイテムです。

今回、INDUSTRIAではその「BLACK 357(以下、オリジナル)」をデザインのベースにして実物にはない私が実際に着たいと思うバランス、構造などを全て理想的にリモデルした商品を作りました。

素材はナイロン60%コットン40%の6:4混率。

気が早いですが、シーズン後半にリリースする商品なので20年春夏も見越したクルーズラインとしての素材にしました。

オリジナルではナイロン50%コットン50%の5:5混率ですが、それぞれの素材のグレードにこだわりナイロン比率を高めることで、強い落ち感と毛羽の少ないクリアーな表面感を実現しています。

次に、各部のバランスを再構築しました。

ポイントとなるのは首周り、襟、肩傾斜、袖付け、着丈と身幅のバランス。

襟はオリジナルのエクストラサイズを着ている時に得られるような前下がりのポイントに設定しつつ、うなじ周りの吸い付きと第一ボタンの開きをテーラードジャケットに近付く構造にしました。

よく見るオーバーサイズのように、肩線を極端に落として視覚的に落ち感を出すような簡易な方法は大人には不向きなので、肩幅は単純に広くせず設定上はジャストサイズに寄せたやや広め程度の肩幅にして肩傾斜を強くし、パターンを撫で肩にして袖山も低くすることで寸法だけでは得られないどこかキレイに着こなしているように見えながら抜けるバランス設計にしています。

そして、袖付けに関してもオリジナルでは使わないテクニックを施し、テーラードジャケットのようなシワひとつない綺麗な表情ではなく、BDU独特の雰囲気を保つため簡素化された構造を全く別の方法を使って高い技術で再現し、結果的にオリジナルのラフに見える縫製仕様だけが改善されたような美しい歪みのある顔つきにしました。

このような、意図的に歪ませつつ綺麗に作れる技術をもった縫製工場を使うことはある意味無駄を積極的に入れ込むことであって当然工賃も安くはありませんが、今や日本のニュージェネレーションの中でも一二を争うパリコレ常連のドメスティックブランドも同じ工場で縫われていて、言葉で説明することが難しい雰囲気を作り上げるために一歩踏み込んだINDUSTRIAのこだわりです。

また、シティーウェアとしてミニマルという点にもこだわりました。

オリジナルではBDUボタンとも呼ばれる尿素樹脂ボタンを採用していますが、INDUSTRIAではブラックメタルのドットボタンへと変更し、その形状も最もシンプルなものを使っています。

BDUの顔ともなる4つのポケットは、ボディーに対してポケットのサイズバランスを拡大し、重心が下がるよう位置を調整、マチをサイドの一箇所のみへと変更することで、言われなければ気付かない程度ですが着用時に視覚的な新鮮さが出るよう再構築をしています。

マチを一箇所へしたことは大きくしたポケットがすっきり見えるような調整でもありますが、物を入れた時にマチが膨らんでポケットの形が歪むBDUが野暮ったく見える瞬間をなくすための工夫でもあります。

そして、最後にINDUSTRIAのオリジナリティーを袖に込めました。

今回の「BLACK 357」ベースのBDUジャケットは、各所の仕様改善やバランスの再構築を細かく行なっていますが、私が最も拘った点は「袖のバランス」です。

全てはミリタリーの機能的で無駄のない理に適った構造をベースにして、肩幅などを新鮮に見えるジャストサイズに寄せつつ、唯一のデザインを袖の見え方に集中させています。

この商品はハンガーに掛けるとぺたんと平面的に見えますが、肩幅や身幅を広くする方法とは異なるボリューム感を作りたかったので、体を入れると袖の立体感が生まれ丸いフォルムへと変わるような作りにしています。

袖の振り、太さ、長さの細かい設定の他に、横から見た時にズドンと直線的な見え方になるようにしながら、長く取った袖口のフラップをタイトに締め上げると肘から手首にかけて膨らむようにカーブする立体的な設計にしました。

もう一つ、エルボーパッチを特殊な構造にすることで、袖に背骨が入ったように張りがあり歪みのないルックスになり、身頃の落ち感の強いフォルムとの強弱が生まれるようにしました。

たくさんの古着を見てきた私が細部を徹底的に編集した、古着にも一般的なブランドが作るミリタリーにもないプロポーションを持つ新しい「BLACK 357」だと思います。

できればオリジナルも同時に並べてご覧いただけるようにしたかったのですが、ご興味ある方は手頃に買える価格なのでネットや古着屋さんでまず購入して頂くのもおすすめです。

既にオリジナルを経験されたり、ミリタリーウェアにどこかしっくり来なかったような細部の美しさにこだわる方にこそINDUSTRIAのBDUをご覧頂けると幸いです。


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