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  • 店主 角地 俊耶

わかっている男のための服


「MAATEE & SONS」

tim. TAIKI MATSUMURAで知られる、松村大基さんの新しいブランド「マーティーアンドサンズ」が19年秋冬に始まりました。

その昔、松村さんのお祖父様にあたる方が経営されていた呉服屋さん「松貞呉服店」から文字った「マツテイ→マーテー→MAATEE」と、自身が最初にブランドをスタートさせたNYなどでポピュラーな名前「マーティー」を重ね、海外にはよくある先祖代々に伝わる伝統的な服飾史への敬意と、それを新たな形で受け継ぐことを意味する「& SONS」をMAATEEに掛け合わせたブランドネームにされています。

今回、改めてブランドを立ち上げられた経緯などはメディアでもあまり見かけることがありませんが、お客様の目線で気になるところはtim.との違いではないでしょうか。

直接松村さんにもお伺いしたお話を私の解釈で書くと、MAATEE&SONSの核には大きく3つのポイントがあると思います。

1:松村さん自身が本当にやりたいことだけを形にする

2:至ってシンプルなことを、極限までこだわる

3:洋服をわかっている人に向けて物作りする

これまでのtim.がそうでなかったとは思いませんが、トレンドを意識すること、お客様のニーズを満たすこと、商業ベースの発想など、ファッションビジネスをしていく上で様々な天秤の釣り合いを考えることは、ブランドももちろん、Bechicsのようなお店も口で言うほど簡単なことではないことを長くやっている人ほどよくわかっています。

ファストファッションやインターネットの普及によって、多くの人が均一な品質と均一な情報を手にすることができるようになった昨今、あれば良いものはなくても良いものとなり、知らないことへの恐怖と知っていることの安心を一層感じる時代となりました。

MAATEE&SONSはそのようなことに対して、疑問や異論を呈するわけではありません。

それどころか、それも一つの在り方として肯定的に理解されている印象です。

しかしあくまでも、あることで彩り豊かになることを深く追求し、些細でも重要な意味を感じることはそれらを主体に据えつつ、時に今の気分をもって鮮やかに裏切っていく。

過去への敬意やノスタルジーに浸らず、今あるべき最高のクリエイションを力を尽くして作るというシンプルな考えであると感じています。

Bechicsでは、tim.の時代から松村さんを非常に尊敬していますが、このMAATEE&SONSで発揮された本気を拝見し、率直なところ私が最強だと思っていた孫悟空はまだ髪の毛が黒くまだ尻尾がついた状態であったことを思い知ったような気分です(例えが悪すぎる)。

さて、商品について語る前に時間を使ってしまう悪い癖がまた出てしまいましたが、今回Bechicsでは松村さんの良さを特に感じることができるアイテムを中心にピックアップさせて頂きました。

こだわりが盛りだくさんの洋服ですが、最初に全てを語るのはこのブランドには相応しくありません。

今回のブログでは表層の部分だけ、簡単にご紹介しますのでご覧ください。

まずは、冬に着るリネン。

リネンを特殊な加工で起毛させフラノタッチに仕上げた斬新な素材を使い、どこか艶のあるリネンのクラシックな雰囲気と、フランネルのような素朴で味わいのある暖かい表情を両立させています。

テーラードの技術を使いながら丸く丸く仕立てていき、あえてラペルもキマらず抜け感が出るように返り点を設定しない狙った脱構築的デザインが特徴。

続いて、古着さながらの油分が抜けたガサガサしたタッチを狙った二重織りカルゼのバルカラーコート。

ツイーディーな荒々しさと手触りの硬さの中に潜む、上品で男らしくエレガントな外套。

襟腰を高く、しかししっかり寝る設計にしたクラシックなバルカラーは、肩のラインも急激にドロップし、生地のハリ感と抜けたパターンの対比がおもしろい現代的ヴィンテージな雰囲気を持っています。

モールスキンのワークパンツは、贅沢にもGIZAコットンを使用して起毛を施した素材。

シンチバック、片ポケ、広く取られた前身などヴィンテージのディティールを踏襲しながら松村さんが得意とされる立体的でミリ単位の美しい調整がされたドレス仕様のシルエットに。

モールスキン特有のハリ感に、ワークにはないしなやかさが加わった上品な一本です。

インド綿の中でも最高峰の綿花を使った原料を、170/2(170番双糸)という極細番手で引き、国内のシャトル機で織ったブロードレギュラーシャツ。

ブロード特有の緊張感を持ちつつ、しなやかで洗うたびに膨らむよう仕立てた贅沢なドレスダウンの感覚が味わえるBitweenなシャツ。

背中と毛回しに分量を取り、ルーズなシルエットも決して子供っぽくならないよう考えられています。

ヤクウールを使ったノーボタンカーディガンは、ヤクの素材特性を十分に味わってもらえるようにシンプルでざっくりした大きめのシルエットにしています。

カシミヤ同等の保温性にカシミヤを超える通気性を持つヤクの毛は、1頭のヤクから年間で100g程度しか毛が採れないと言われる大変希少な素材です。

毛玉になりにくく、メンテナンス性の良いところなども今の時代に合っていますが、チベットなどに生息するヤクの毛には独特の獣毛感があり、白っぽくムラのある染まり方やウェービーでところどころにヒョロヒョロと飛んでいるアホ毛のような仕上がり感は、カシミヤなどの上品さには見られない程よい荒っぽさもあり、お坊ちゃんに見えないメンズ服らしさを際立たせます。

希少な手横機を使い、時間をかけて編み上げることで柔らかさとエアリーなフォルム、そして力加減によって生まれるノスタルジックで暖かい表情はベーシックなカーディガンを改めて良い服だと思わせるような力があります。

同じく手横機を使い、振り編みによって柄のテンションに変化を付けているタートルネック。

様々な柄を入れ込みながらシンプルでわずかに特徴を持たせたタートルですが、ウールに和紙を半分程度入れた素材も特徴的で、カリッとした手触りとウールとは違ったスッキリした表面感が新鮮です。

柔らかく、ドロっと落ちるようなトロミがあるニットも素敵ですが、最近特に雰囲気のあるものに惹かれる私はこの質感にヤラレました。

「FOR THE MAN WHO KNOWS」

MAATEE&SONSはわかっている人に向けて深く刺さる服を発信します。

3周年を迎えたBechicsが放つ2本目の矢、どうぞご覧くださいませ。


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