沈思黙考

7月6日から20日までの15日間、再びアメリカに行くことにした。

 

私はスマホのキャリアをソフトバンクにしているため、アメリカでは「アメリカ放題」という通信サービスが使えるのだが、手持ちのスマホが対応機種ではないことから長らく使っていたiphone 5sから買い換えることにしたところ、今度は久々の買い替えだったこともあり最新機種のスペックに殆ど共感できなかった。(後日詳しい方とお話をして、最新機種の素晴らしさを教えて頂き大いに勉強不足も感じた)

 

「高画質の有機EL(OLED)ディスプレイを採用」

「システムにはMR(複合現実)を取り入れた画期的な端末になる」

 

おそらく多くの方々にとってはフムフムという話であると察しているが、恥ずかしながらこの2年程はBechicsの立ち上げに全神経を集中させていた浦島太郎な私にとって、はるか未来のことを話しているかのような、文字だけ見ていてもチンプンカンプンであるとしか言いようのない内容であった。

 

そして、今までSiriすら満足に使ったことがない私は、目的の「アメリカ放題」にエントリーできるiphone 6への買い替えをさっさと済ませた1時間後に自身のスマホの電源が入らなくなっていることに気付いた。

 

運命か、それとも私の浮気心がとどめを刺したのか。短時間で起きた一連の作業と結末から、モノを買う(買い換える)ことについて考えるきっかけを与えてもらったと捉え、このブログを書くことにした。

 

私が感じたことは大きく4つ。

 

1:「最新」の連続は古いものを増やすことでもある

私は真空管テレビ世代ではないが、四角い箱の中に突如現れた力道山が空手チョップで相手を倒す興奮とまではいかずとも、最新とはそういうものであって欲しいと思う。

ジョブズがmacを開発したことは最新と呼ぶに相応しいが、近頃のiphoneのバージョンアップは重箱の隅をつつくような改善も多いように見え、それを「最新の!!」と感嘆符たっぷりで押し出すのはヒトの感情を過剰に煽っているだけのようで好きではない。

「最新のファッション」「最先端」というフレーズが易々と飛び交うこの業界こそと言われてしまう状況だが、頭の良いお客様からはそれがどうしたと言われるだけでなく、売り手は自ら発した安い売り文句によって、まるで少し前のものが賞味期限切れかのように映ることも少なくない。

良いモノを長く売ることは日々難しくなっているが、時間を超えていくようなものがあることはITとファッションの大きな違いでもある。それが伝えられるようになりたいと改めて思う。

 

2:人に合っていることの重要性

本来、多くのモノは誰かのために作られているはずにも関わらず、あまりにも自分に合わないモノが多い。

モノを売ることを専門に15年以上も働いていると、私のようなファッション漬けの人間でも流通産業の鉄則のような事柄がぼんやりと見えてくるのだが、良い商品とはお客様の価値観や生活にフィットすることが前提であり、更なる付加価値が加わった時にそれは売れるモノとなる。

つまり、iPhoneという生活に浸透した商品に「アメリカ放題」という付加価値が付いたことで新しく買い換えるに至ったわけだが、私の場合はそれ以上でもそれ以下でもない。

現在は、その付加価値のバリエーションが急速に増え、ネット通販のようなあらゆる利便性を強みにしたビジネスや、ファッションの領域では試着をしなくてもコーディネートが可視化できるようになるなど、ありとあらゆる面倒がなくなっている。

業界紙を見れば、「ファッション×IT」が一面を飾ることも多くなったいま、ファッション業界は今までのような店頭接客におけるホスピタリティーや、店舗スタッフがオシャレなことだけでは確実にお客様にご満足頂けない時代に突入しているが、ファッションの魅力はデータ理論や理屈で説明できないような曖昧さでもあり、結局のところ私たち洋服屋は「お客様一人一人にとっての最良」を探し続けることに尽きる。それこそが付加価値になると考えるなら、こんな小さなお店でもできることはまだまだたくさんある。

 

3:便利によって失われていくこと

予め断っておきたいことは技術や創造性の進歩なしに未来はなく、全てが不要と考えているわけではないが、私に限らずもうここらでいいじゃないか(今の進化のスピードが速すぎる)という人も多いような気がしている。

今回の私で言うなら、「高画質の有機EL(OLED)ディスプレイ」や「MR(複合現実)を取り入れた画期的な端末」には全く興味がなく、目前の問題解決を求めたい気持ちだった。

テクノロジーの進化がまるでロボットにでもなろうとしているように見えてしまうような、変化を恐れる私も私だが、生まれたての娘が数年後にバーチャルな世界で仮想の友人にゾッコンにでもなろうものならそれこそ地球の未来はないと思えて仕方がない。

そういう意味では斬新な特殊素材が次々と生まれる繊維業界や、それに準ずるアパレル製品が開発されることは例外はあれど良いことが多い。現時点でBechicsでは毛色違いということもあって街着としてはオーバーな機能を持つ商品は積極的な展開をしていないものの、天然繊維では解消できないような快適性を持った高機能素材などは、明らかに着心地を改善しヒトに役立っている。さらに昨今では、天然繊維の優位性でもあった風合いという感覚的な部分までをもクリアにしつつある。

しかしこの先、四季全てに快適に着られる洋服が生まれたとして、それを着続けることで豊かさを得られるとは思えない。夏になれば出てくる派手柄のシャツも、秋になると恋しくなるミルクティーのようなカシミヤニットも、日本人の豊かな感性を育ててきた一要因だと思うと、快適によって感性を失うことのないようBechicsでは彩りや物事の機微を大切にしたいと思う。

 

4:ものを買うということ

つまるところ、ファッション業界で働く人間としてヒトがモノを買うことで得られる幸せがどこにあるのか、ということを考えた。

人間性心理学で知られるマズローの5段階欲求の話に例えれば、我々のような高感度ファッション製品を扱う業界は既に高次の尊厳欲求や自己実現欲求の実現のレベルに属するわけだが、インスタグラムの出現などにより、帰属欲求のようなコミュニティー感も無視できない。

みんなと違うことは一時ファッションにおけるプライオリティーの一つとして確立されていたはずだったが、今は繋がりを持つ上で多くの共感と尊敬が得られるようなものに振れている。

しかし、このような話は生きていく上で不可欠なレベルのことではなく、いわゆる贅沢だ。

そんな中で、洋服はおろかモノを買う理由がとても不明確になっている時代に私ができることは、モノの売り方を考え、ただの横流しとならないよう尽力することだろうとしみじみ思う。

理想の売り方とは、キャッチーな価格や限定性や最新性などの類を強みとした表層的手法ではなく、お客様がそれを手にすることによって明日が楽しみになる、そんなディープかつシンプルなことだと思う。

その実現にはまだまだ学ばなければならないことが多いだが、少なくとも1日から始まるSALEは今まで以上にモノ売る側も買う側も理由が求められ、価格が安くなったモノはその価値までが下がったように映るだろう。

「最新」ではなくなったそれらの価値をしっかりとご説明し、お客様の明日が幸せになるSALEとなれば良いと心から思う。

 

ただ頭に浮かんだ考え事を書き連ねたブログだが、早くも18SSの買い付けもスタートし、また次へと一歩踏み出すとともに残った在庫を見たときに感じた商品への愛は、ここにどうしても書き残したかった。

 

 

 

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