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  • 店主 角地 俊耶

鉛筆から生まれる傑作


「傑作」という意味を持つ会社、Masterpiece and Co. が運営するScyeというブランド。

洋服好きな方々なら一度は袖を通した事がある、もしくは何着か所有している方も珍しくないほど有名なブランドです。

Bechicsを立ち上げるにあたり、絶対に必要なブランドとして連絡をさせて頂いた理由は他でもなく、ただただ『誠実な商品を作り続けている』からです。

消費者側から見てデザイナーとパタンナーが同じ存在感を持っているブランド、というのは珍しい例ですが、皆様ご存知の通りScyeが作る商品は線1本にまでに意味があり、それこそがScyeというブランドのパーソナリティーであるといっても過言ではありません。

今回は、一つ一つのアイテムについての特性を書き並べるとキリがないので、骨子の部分だけをご紹介させて頂きます。

Scyeは自らをコレクションブランドではなくリアルクローズと称するように、日常着としての完成度(美しさと動くこと)にこだわりを持って物作りをされています。

Scyeの考える美しさとは、人の体に対して理にかなったフォルムであること。

例えば、袖は腕の自然な形に沿うように少し前に振っているため余計なシワが入りにくく、すっきりとしたシルエットが浮き上がってくることや、肩線を後ろに倒して線を引くことで肩甲骨の部分に必要なゆとりが生まれ、結果として背面のフォルムが美しくなることを意図的にしています。

また、Scyeの考える動くこととは、古くは1900年代初頭の軍服に用いられた剣を振るためのデザインなどがベースに考えられています。

馬に跨り剣を振るう騎士が着る服は、四方八方からの危険に対処できる動きやすさと次に動くために動いた後の収まりが良くてはなりません。そのような意味を持ったデザインが古い軍服には多く用いられており、そのエッセンスを現代の服にどうすれば自然に入れ込めるのかを考えながら型紙へ1本ずつ線を入れ込み、平面から立体へと組み立てていきます。

私はパターンや生産についての難しさを体験したことはないのですが、パターンとは設計図にあたるものなので、その1mmが見た目と着心地に大きく影響する繊細なお仕事だと聞くだけで、職人気質が求められるとてもシビアな世界であることも容易に想像できます。

現代においては様々な技術の進化も後押しして、工業製品である洋服の製造もどんどん自動化が進んでいますが、Scyeは毎シーズンのイメージをもとにどう組み合わせていけば理想の形と運動量が得られるかということを徹底して研究し、製品に落とし込んでいます。

洋服は見た目以上に複雑な一面を持っていて、生地を裁断して縫っていく、というシンプルな作業の中で、生地の特性や縫いこんでいく過程でどんな伸縮が起こり形や着心地に影響するのか…というようなことを先読みをしながら設計していかなければなりません。

つまり、1+1=2になる時もあれば2にならない時があることをよく理解して、時には3になることを狙って物作りをしていくのがデザイナーやパタンナーの仕事ですが、Scyeはまさに3でも4でも狙って作れる腕を持っている稀有なブランドだと言えます。

その一例として印象強いのが、Scyeは基本的に直線定規と鉛筆1本でパターンを作られており、カーブに関してはフリーハンドで描かれています。

理由はシンプルで、曲線定規を使うと定規の形が描けるだけで理想の曲線が描けないから。

パタンナー歴30年の腕があるからこそできるまさに職人技で、この手で描いた線1本に込められたこだわりこそがScyeの美と動のヒミツだと思えてなりません。

縫製技術や生地、付属や裏側など、まだまだ奥が深いScyeですが今日はここまで。

あまりに自然で美しいものは、時々それが当たり前でないことを忘れそうになります。


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