• 店主 角地 俊耶

拝啓、ヤマケ様


拝啓 暑さもようやく厳しさを増してまいりましたが、ヤマケ様にはお変わりなくご健勝のこととお喜び申しあげます。

日本と同じく四季があるコペンハーゲンにお住まいのヤマケ様も、そろそろ暖かい日差しと共にサマーハウスへとバカンスの準備にお忙しい頃でしょうか。

さて、この度は丹念に作られたヤマケ様の新作が届きましたのでお礼方々筆を執らせて頂きました。

早速心を躍らせながらダンボール箱を開封し、中から漂う異国の香りはただでさえ特別な貴殿の印象を更なる高みへと押し上げ、気が付けば私は東京にいながらクリスチャニア(大麻が合法とされるデンマークのヒッピーコミューン)を感じておりました。

いきなり話が脱線しましたが、今回の新作もまた素晴らしい出来栄えですね。

思えばシャツ一本で勝負を賭けた勇ましきお姿を始めて拝見した1年前、当時たった2型のみの肩スカシのような鮮やかなコレクションから1型、半袖の比翼デザイン「PALMO」をピックアップさせて頂いた際、あなたのお友達から伺った独自のレシピで開発されたシグネチャーマテリアルのポプリン素材の事は今でもはっきり覚えています。

私の言葉足らずからほんの少しだけ在庫を残してしまったものの、ヤマケ様をご存知ない方々が喜んで買ってくださったデビュー半年間のことは、生涯忘れることなどできません。

そして、今回はヤマケ様にとって2回目となる大事なシーズンです。

私たちバイヤーが最も悩むのもこの2シーズン目であることは十分お察しであられると存じますが、店に並べる半年前に買い付けるシステムである業界の慣習から、今回買い付けた新作はまだ見ぬお客様の反応を更に予想して、ファーストシーズンがマルかバツか、マルであるなら買い付けを増量せねばなりません。

しかしそんな事は杞憂であることを貴殿は示してくださいました。

あれだけ絞り込んでいたはずのコレクションがもう5型に増えているじゃありませんか。

どうやらファーストシーズンのバイヤーの反応がとても良かったようですね。

「このビジネスはいける」そうデンマーク語で呟かれたのでしょう。

畏敬の念を通り過ぎ、もはや承認も頂いていない中で勝手に「ヤマケ様」と呼ぶようになってはや20分、改めて貴殿の洗練されたお名前に憬れます。

「JAN MACHENHAUER - ヤン マッケンハウアー」

最初は、ベッケンバウアーがドッペルゲンガーでもしたものかと驚きましたが、当たらずとも遠からず、商品のエレガントなパフォーマンスに貴殿の魅力を垣間見た次第です。

実はヤマケ様の過去について、詳しい方からお話を伺う機会がありました。

80年代にも「JAN MACHENHAUER」名義でパリにてコレクションを展開されていたなんて、水くさいじゃないですか、早く教えてくださいヤマケ様。

当時からミニマルで、ボリューム&シェイプのテクニックを得意とされていたヤマケ様。

この写真にポートレートモードが付いていようものなら誰が40年もの昔のものと思うでしょうか。

貴殿の最大の特徴が生地の動きや膨らみを計算した立体的なフォルム作りにあることは十分理解しているつもりでしたが、Instagramに掲載されたアーカイブを拝見し、再びヤマケ様が動き出し世界の実力店から抜擢されるのも至極当然のこととお察しいたします。

至って個人的かつ的外れなコメントをさせて頂けるなら、私は貴殿の作られる低めに設定された台襟がその仕立ての柔らかさ故に襟の重みでカールしてしまう、そんなレギュラーカラーには見られない半ばオープンカラーのようなエフォートレスな着地点、そしてその特徴を助長するようにあれだけ一押しされていたポプリンを早々と置き去りにするような新素材のソフトツイルの発表はヤマケ様の悪戯な一面とストイックな研究心を見たようで、またしても私の心は穏やかではなくなっています。

そう言えば、この国で大流行していると噂の「オウラリイ」というブランドも、貴殿がはるか昔から使われている袖口の異形タック使いを採用されており、袖の膨らみを演出しながらドレスシャツとの違いを示されておりました。

しかしいつもながら、貴殿の丸縫い生産方法はライン生産にはない手仕事の暖かさと細かな始末の美しさが際立っております。

最近はワイシャツもずいぶん自由に着られるようになりましたが、ボタンを開けても裾を入れ込んでも不思議と落ち着くヤマケ様のシャツに隠された秘密について、勉強不足の私はまだまだ研究しなければならなそうです。

結局成長しない私は、余計なことを嫌う癖が抜けずに貴殿の知的で素材の美しさが際立ったネイビーを、今年もいつものボトムでゆるりと気負わず、まるであなたの価値をわかっていないように着るのでしょうか、着るのでしょう。

気がつけば、筆に夢中で手元に置いたアイスコーヒーの氷もすっかり溶けておりました。

少し薄くなったコーヒーの味ですら、水彩絵の具の色出しを理想として色彩を追求しているヤマケ様のお姿を思い出す、そんな私をどうかストーカーとは呼ばずこれからもお付き合いくださいますようお願い申し上げます。

日本の夏は今年も暑う暑うございますが、ヤマケ様の力の抜けたシャツのおかげで何とか乗り切れそうです。

デンマークの過ごしやすい夏のように、涼しい顔をして貴殿の素敵なシャツをお試し頂くお客様がこれから更に増えますように。

敬具

追伸

去りし7月末の展示会にて、20年春夏の新作と共に神々しく飾られた貴殿のお写真では見事なニットの着こなしをご披露されており、その端正なお顔立ちに惚れ惚れすると同時に私の心に一滴の黒い絵の具が滴り落ちました。

次回は、できればシャツをお召しくださいませ。


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