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店主 角地 俊耶

あからんまで(前編)


「あ」から「ん」まで、と読んでください。

A to Nを文字ったATONは、2016年秋冬にローンチされた日本のブランドです。

Bechicsではこの秋冬からのお付き合いとなります。

最初から最後までという意味のATONは、その名の通りモノづくりのスタート地点からお客様に渡って時間が経ち、最後にその品物がどうなるかまでを深く考え、その一連を全てデザインとして監修するというブランドです。

今回先にお伝えしたいのは、あからんまで全て書くといつも長い(長すぎる)ブログが10倍くらいの分量になりそうなので、結論から話しますということ。

それは、元も子もない話、結局のところATONの製品の良さを深く味わうためには着てみるしかない…というあまりにブログ映えしないお話ですw

私も今まで様々な記事を書いてきましたが、このATONはもしかしたら今までで一番色々考えさせられたブランドかもしれません。

実は先週の木曜日に、Mr ATONことディレクターのK様に弊店までお越し頂き、弊店で買い付けた商品について貴重なお話を伺うことができました。

本当は、そこで得た情報をもとに商品について、あれがどーだここがすごいということを書こうと思っていたのですが、私の想像をはるかに超えるKさんの深いお話に、思わず私のスイッチが入ってしまい2時間半のディスカッションで得たATONを理解するきっかけとなるお話を書こうと思います。

そんなこんなでやはり長いので、前編と後編に分けて書くことにしました。

前編はATONのフィロソフィーについて、後半はプロダクトについても少しだけお話しようかと思います。

-地図の一番左端、ポルトガルからスペイン、フランスとこれまで世界中の国を周りました-

Kさんの最も専門性が発揮されるところの一つが、テキスタイルに関わる領域。

何十年も前にその業界に足を踏み入れて以来、世界各国の原料産地、撚糸工場、加工場など、一つの生地になるまでの工程を数多くご覧になっていらっしゃいます。

そこで得た情報、人との出会いは一言に語れるものではないようでしたが、私がお話を伺っていて最初に引き込まれたところは、

「ある時期、なぜそんなやり方をするんだろう?と感じることが出てきた」

と仰ったときです。

これは話を続けていくうちにわかった、Kさんなら違う方法論でもっとクリエイティブな生地が開発できると感じた瞬間だったようです。

私のように、ファッションの流通で最も出口に位置する人(逆に入口の人と言えば、生地の原料を作っている方々など)は、ものが作られる流れを見る機会はそう無いので、服になる前の生地のアレコレなんて、諸先輩がたはさておき私はほぼ素人です(恥ずかしいことですが)。

生地を作る流れを超簡素化してご説明すると、

原料(ex.綿花、羊毛など)を糸にして、織り機や編み機で生地にする、ということなのですが、テキスタイルデザイナーと呼ばれる方々は、前述の工程を細分化した様々なプロセスに知恵や技術を入れて過去になかったような生地を作ったり、今までにない最適性を持った素材の開発に携わっていたりして、少し大げさかもしれませんが科学者のような仕事をしています。

所謂”研究”が進むと、1+1=2にしていたことを、3-1=2にすることで同じ2という生地がまるで別物になったりすることを発見するのですが、Kさんの場合は極端なおハナシ、1×1=2にできてしまうような独自のレシピを開発できる領域にいらっしゃる印象でした。

-繊維や皮革の業界の常識も非常識も見てきた中で、どのようなことができるか-

繊維も皮革も天然のものなので、当然一つ一つの綿花や牛一頭に個体差があります。

では、店頭に並ぶ大量生産された商品にその違いが見られるか?と言うと、気付くケースはほぼありません。

私も知らなかったお話ですが、そのようにある一定の品質を安定供給する上でテキスタイル業界内では様々な工夫がされていて、その内容についてはあまりに専門的かつ公開できる内容ではないのでここでは伏せます(店頭でもこれはお伝えできません)が、大枠だけ書くなら深く入り込んだ人のみ知るカラクリがあり、逆にその一定の品質を大きく超えるような裏ワザも存在します。

生地のグレードを上中下と大きく3ランクに分けて、上の素材とはどのようなものかをお尋ねすると、私が上だと思っていた素材はKさんの見解では「上の下」に位置するようで、「上の上」の素材と思うものをKさんが過去に所有されていたときは、中に化繊が入っていたということで、恐らくそうでもしなければ生地がとろけてしまって安定しなかったのだろうということでした。

天然素材100%じゃないものに上の上が存在するなんて、まさに目から鱗でした。

(もちろん、天然素材100%の上の上も存在します)

-大体「中の上」になるように様々な工夫をしました-

これはATONのFUR CASHMEREの説明をして頂いていた時に仰ったことですが、いかにして良いものを安く作るか、ということも創造性を発揮する作業の一つです。

29,000円(税抜き)で納得ができるカシミヤセーターを作るには、いろいろな工夫をしなければならないのですが、FUR CASHMEREで特に拘ったところは

1:発色に特徴を持たせるために、色がストレートに出るホワイトカシミヤを使っている

2:高級なカシミヤに一切の無駄が出ないように、FUR加工をする時に毛を掻かない

3:2の特殊加工をすることで、カシミヤにダメージが発生しないので必然的にピリングが発生しにくい素材になる(メンテナンス性と表情が良い)

他にもありますが、主にそういうことでした。

あまり具体的なことを書くとKさんの独自の手法が露出するので控えますが、これらの工法を選ばずに同じ商品を作ろうとすると、何割か割り増しして価格を設定しなければならなくなり、結果的に値頃感が失われてしまうようです。

今回、Kさんとお話をしていて価格についての考えを改めさせられる部分が多くありました。

私はこれまで、安いものには安い理由が、高いものには高い理由があると話してきましたが、例えば全く同じ商品をA社とB社、そしてKさんが作った場合に商品の顔つきはもちろん価格の差が歴然と出るまでとは知りませんでした。

それは、先ほどお話をした内容に近いですが、A社は1+1=2で2という商品を作り、B社は3-1=2という商品を作ったとします。

A社の場合はもともとの出資が1と1で2なので、コストは2です。

B社の場合は出資が3でそれをわざわざ1つ無駄にして2にしています。

この場合、B社の方が1つ無駄を発生させている分贅沢なものが出来上がりますが、価格は上がります。

Kさんの場合は1×1=2にできる、独自のルートや方法論を持っていらっしゃり、コストは1ですが結果的に2の商品ができるというわけです。

(これは考え方の話で安い素材を使っているとかそういうことではありません)

ざっくりですが、そのようなカラクリをもって29,000円のハイグレードなカシミヤセーターが誕生するのですが、ATONの商品それぞれには必ず何らかの工夫や方法論が存在し、結果的にATONのコンセプトである「ここにしかないもの」となるようです。

(後編)につづく


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