• Toshiya Kakuchi

最高の最低




「角地さん、BATONERのIでゴザイマス。」



4月の末日頃だったと思うが、苦虫を既に数匹は食べた後のような声で電話がかかってきた。



出荷準備が整ってきた頃に取引先へ納品前のアナウンスをする、あまり他のブランド様では見られない奥山メリヤス様特有の親切なアレだ。



「最近はイカガデスカ。」



疑問符ではない、既に回答を知った上での句点だ。



当然だが、新型コロナウイルスの影響で(特に東京の)お店は散々な状況だろうという予想のもと、その後に続く話題のブリッジとして言わざるを得ないのだろう。



「今季最後の出荷準備が整いましたが、ドウシマショウカ。」

「整いましたので出荷致します」ではない、ドウシマショウカ。だ。



人間味のある優しい社風の奥山メリヤス様らしい、こちらに一度”バトン”を渡してくれる話し方だが、当然『準備ができ次第出荷して頂けますか?』そう答えた。



このやり取りで思うところは、後半のブログで書くことにしよう。



もともと、営業のIさんとは普通のビジネス関係ではない(アッチの話じゃナイヨ!)ちょっとした相思相愛の関係であるとこっちは勝手に思っている。



私より少し年上のお兄さん?(年齢は知らないが)に見えるIさんは、BATONERとのお取引を始める前に普通のお客様としてBechicsにたまたま(本当にそうなのか?笑)ご来店され、そして自分の身元を明かさないまま楽しく話し、あの日は私の勧めた商品を2〜3点お求め頂いた。



それから約1年後に私から奥山メリヤス様へお取引のお願いメールをお送りしたところ、後日あの時のお兄さんが突然現れた。



私はあのお兄さんが奥山メリヤスの人間だと思うはずもなく、久々の再会に嬉しくなってしまい、前回の話や今日はどうして来たんだ?と来店直後から、まるで”YOUは何しに日本へ?”のリポーターのようにまくし立てたことをよく覚えている。



そうこうしているうちに素朴な雰囲気を持った男性がもう一人ふらっと入って来られ、どうやらお兄さんの知人のようだったがオシャベリ好きなお兄さんとは打って変わり寡黙な知人様は、黙々と商品をご覧になっている様子だったので私はお兄さんと色々と話をしながら知人の男性を白目でウォッチングをしていた。



ちょうど当時お取引させて頂いていたAURALEEとATONで同じような真っ白のプレーティング編みのカットソーを取り扱っていたのだが、それをまじまじご覧になっている知人の男性に私は合図を受け取ったと思いお話を伺いに行くと、要はどちらかを買おうを思っているがどっちが良いんだというような事だった。



その差を語るのは非常に難しい2択だった。

お店にある全ての商品の中で、最も特徴の似た2つだからだ。



AURALEEのそれは11,000円、かたやATONは12,000円であったが両者非常に近いクオリティの糸と編み地の基本構成も同じで、売り手の私も瞬時にその違いを説明することはとても難しく、頭の中で糸が、生産背景が…というような引き出しを一瞬開けたが、話し始めると極端にマニアックでわかりにくい話になるため、まずはこの寡黙な男性に対しては大雑把な形や生地の厚み、そしてしばらく使った後の状態などについて話をした。



そして、何となくカットソーが一方で決定し、続いてパンツもまた説明を要するオシャレなものを選ばれていたが、それについては1択で説明さえすれば良い状況だったでスラスラと話してそれも素早く決まった。



さあ、お会計…というところで、男性の口からとんでもない一言が。



「先日はご連絡を頂きありがとうございました。奥山メリヤスの奥山です」



「寡黙な知人」と失礼なアダ名を付けたその人は、私がラブコールを送ったBATONERの奥山さんだったことを今さら知り(というかそんなことを知らない私も私)、会計どころではなくなってしまったのだが、何とか無事に入団テスト(なんてことは言われてないしそのつもりもなかったのだろうが、こっちからすれば)をパスしたことをその場で知らされ、地獄と天国をほんの数十分で素早く味わった。



そして、その横でほくそ笑むお兄さんの顔は今でも鮮明に覚えている。



お兄…BATONERだったのか…!!





(後半につづく)












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